住人
「地獄はあると思う?」
「ほら、よく小さい子にさ、悪い事をすると地獄に落ちるよって言うだろ?
例えば本当に誰かがいつも監視していて
一挙一動、一言一句が地獄の道へと進めているのだとしたら、僕はもう何が悪か分からないんだよ。
だってそうだろ?
こうやって噛みきれないステーキを君と食べてるわけだけど、美味しくないねなんて言うのも気が引けたりさ。
君は僕の様子がおかしいからってこうやって外へ連れ出してくれたけれど
君にそんな心配をさせて、さらには労力を使わせてる。
極端だって笑うなよ。
でも突き詰めていったらそう思うだろ?」
「全てのことには善の面と悪の面がある。
人道に悖らない限りは善だって誰が決めたんだろうな?
衝動を何とか抑え込んでやり過ごしていたとしても、僕らは何かしらの罪を犯してる。
でも大概の人間がそれを分かってないんだ。
きっとみんな地獄に行くさ。」
「自覚があるかどうかだって?
うん…そうだな…
あれだろ、動物は食欲を満たすために赤ん坊を食らっても、それは生存するために本能のまま行動してるだけだから悪では無い、とかな。
でもそれってそこに悪意がなければ悪では無いってことだろ?
人間には当てはまらないさ。
だって僕らには知能も感情もあるからね。」